「・・・怖い女(ひと)ですねィ」
「あら、女は怖い生き物でしょ?」
新宿歌舞伎町、数少ない和製ホストの店の奥、個室のVIPルーム。
くつくつと笑う赤い唇は光を含んで妖艶に歪む。
いつもより派手なスーツを着た沖田は、降参して口を割った。
「何でわかったんですかィ?」
「私の情報網を甘く見てもらっちゃ困るわね」
「御宅の商売敵になる気はありませんぜ」
「端から相手にしてないわ」
咥えたタバコにライターを差し出す手。
ロックグラスに放り込む氷。
妙に慣れていて、そのくせ妙に初々しい。
「経験者?」
「まぁ、多少はありますねィ」
「ふぅん。元ホストが警官になってホストクラブに潜入なんてややこしい話」
「大声で言わねえで下せェ」
「大丈夫よ」
沖田は優雅な手つきでグラスを煽る女をチラリと見て、たしかに大丈夫そうだと納得する。
何と言っても、この街の女帝だ。
それが何で、こんな店に。
「あなたの上司と部下は?」
「一人は客商売にむかねえし、一人は要領が悪くて客がついてねえです」
「あら、じゃあヘルプに付いてもらいましょうか?」
「土方さんに付かせたら仕事しようとしますぜ。山崎じゃ手玉に取られてこっちの部が悪ィ」
「ふふ、頭がいいのね」
「お褒めに預かり光栄でさァ」
チャイナドレスから伸びた神楽の白い脚がこれ見よがしに組み変わった。
流れる視線は色気よりもむしろ凶悪で、さすがの沖田も背筋が伸びる。
「・・・目的があるんだろ?」
「わかってるなら話は早いわ。情報交換といかない?」
「何の」
「そうねぇ、まずは・・・」

手袋に包まれた指がすっ、と動いた。
直後に、足音。

「この店にいる理由、かしら?」

ガガガガガガガガギュン!!!!
乱入してきた男達を、神楽の傘が迎え撃った。
沖田は取り出した銃の使い道をなくして、戸口で山になった死体を呆然と見る。

「私に奇襲を掛けようなんて、100年早いわ」

傘を改造したマシンガンから、たなびく煙。
「・・・姐さん、あんた」
「ふふ、こいつらずーっと私を狙ってたのヨ」

ぐい、と沖田の耳を引っ張り、神楽は何かささやいた。
沖田は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑う。

「じゃあ、俺らは利害が一致してたワケだ」
「そういうことアル。私の商売敵を増長させるわけにいかないもの」

神楽の商売―金時と新八に任せた店のことではない。
本業ともいえる、密輸や盗品売買のルートを荒らし始めたのがこの店のオーナーだと。
そして、それを調べるために潜入したのが沖田たち。

「ねえ、誰か呼んでこのゴミ片付けさせてヨ」
「ああ、そうですねィ」
「でも良く考えたら、警官さんに殺人現場見られちゃったわね」
「今はしがないホストでさァ」
「あら、調子がいいこと」
「口止め料はやすくしときやすぜ」
「ドンペリゴールド、ロマネコンティ、ヘネシーリシャール、でどう?」
「・・・全部飲むんですかィ?」
「そうヨ。付き合ってくれるでしょ?」

ホストが警官になって今はホストでたぶん明日も、ホスト。
徹夜の張り込みとか深夜の見回りがないのなら、
この客を逃がす理由はない。

「・・・ごっつぁんです」

血の匂いの中で、二人は盛大な乾杯をした。


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