24時間前は確かに主役だった、甘くて可愛い小箱たち。
コンビニエンスストアのレジ前。
手書きされた「50%OFF」の紙切れを貼ったカゴに詰まれた
バレンタイン・チョコの売れ残り。
世間の勝手な陰謀に振り回された挙句
価値を下げられ投げやりに売り飛ばされる。
妙はそのカゴの中から、できるだけ飾りのシンプルなものを選んで
弁当や温かいコーヒーと一緒に会計を済ませた。
兄とその仕事仲間へのチョコレートは、昨日のうちに渡してある。
お返し楽しみにしてる、というセリフも忘れずに。
ちゃっかりしてんな、と呆れる金髪天パと
もちろん考えてあるよ、と貰える事を前提に一月先を見ている兄。
毎年あげて、毎年それなりのものが返ってきて、
いい加減飽きてきた恒例行事。
周りばかりが浮かれていて、イヤになってくる。
毎年同じことの繰り返しで、飽きて嫌気が差してきたから。
「おい、そこ」
「はい」
呼び止められて、足を止めた。
「ドコに行く?」
「・・・家に帰るんです。私をつけてきても、兄は留守ですよ」
咥え煙草の私服警官は、苦い顔で妙を見下ろす。
「今度は何たくらんでる?」
「知りません。私はただの高校生で、兄の仕事とは無関係ですから」
妙はすらすらと嘘をつく。
昨日、新八と金時が大きな荷物を持って神楽の所有するリムジンに乗り込んだのを見送った。
行き先は聞かなくても、帰ってくるのはここだ。
ネオンもまばらな、夜明け前の歌舞伎町。
「・・・アンタ、今日も一人か」
「同情ならいりません。私、平気ですから」
「同情じゃない。心配だ」
「心配だけされても、迷惑です。貴方は私の幸せを壊す立場の人でしょう?」
新八も金時も神楽も、
妙にとって家族だ。
彼らを追う側の人間に、身を案じられても困る。
「でも、そう言ってもらえるのは悪い気がしないわ」
妙は言いながら、コンビニの袋をガサリと鳴らす。
「賄賂ってわけじゃないですから、夜食にでもしてください」
言い訳を並べて差し出した、買ったばかりの小さな箱。
「それじゃ、暗くなる前に帰らないといけないので」
言い捨てて駆け出した。
頭上でネオンがぱたぱたと色付く。
痛いほど冷たい2月の風を受ける顔が熱い。
バカみたいに甘い空気がしぼんでしまった今日に渡して、
意味が伝わるとも思えない。
だからあえて今日、半額のシールもつけたままで押し付けたのだ。
お返しも返事も無用。
周りが作った空気や、恒例化したやりとりと違うことがしたかっただけ。
ただそれだけなのに。
帰宅後に、携帯メールで味気なく一言「また来月に」と答えられた。
それまで会わないということなのか、
その日には確かに会えるという約束なのか、
妙にはわからない。
来月の今日、確かに会えるのと言うのなら。
欲しいものくらい聞いて欲しい。
答えならもう出してある。
『欲しいのは君』
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