深夜4時のネオン街。
酔いつぶれて路上に寝転がる男を横目に見ながら、金時はべたべたと裏道を歩く。
前方の壁に見覚えのある人物がよしかかっているのを見て、足を止めた。
「おう金時、ちょっと時間あるか?」
人好きのする笑顔と、時間に似つかない能天気な声音。
金時は降下気味のテンションを無理に支えて笑顔を作る。
男は私服警官で、名を近藤という。
きっかけが何だったかは忘れたが、気が付いたら知り合いになっていた。
「・・・どーも、お勤めごくろーさんです」
「お前もな!」
ばん、と肩を叩かれて顔をしかめた。
お仕事に精を出されるとこっちは動きにくい、という意味だったのだが。
微妙な嫌味も、この男には通じないらしい。
「で、今日は何の情報欲しいんだ?近藤さん」
「話が早いな」
ちらり、と周りを警戒してから、近藤は低く落とした声で言った。
「・・・お前、『桂』って男を知ってるか?」
「カツラ?」
「イントネーションが違うぞ。桂ってのは、最近水面下で外国人ホストの撤退に動き出してる男だ。
どうも、穏便なやり方じゃなさそうでな」
「・・・へえ」
「いないか?昔の知り合いでも、同僚でもいいから」
金時はしばらく脳を働かせてみたが、結果はあくびが一つ出ただけだった。
「さぁ?思い出したら教えるから、また今度で」
「頼んだ。・・・あ、それと、あのな」
急にモジモジと気持ち悪い素振りになった近藤に、金時の足が一歩引く。
「た、妙さんは、元気か?」
「何オッサン、マジで妙狙ってんの?」
「オッサン言うな!お前も似たような年だろう!」
「元気なんじゃねえの?シスコンの新八がちゃんと仕事してるってことは」
「そっ、そうか!よかった!じゃあ金時、桂のこと頼んだぞ!」
「へーい」
最初よりも元気になったらしい近藤が『職場』へ戻るのをだらりと見送り、金時は来た道を戻る。
心当たりの人物を数人尋ね、行き着いたのは金時には馴染みのない店。
『かまっ娘倶楽部』の看板が、ケバケバと煌いている。
客を見送りに出てきた店員(オカマ)をつかまえて聞けば、たしかに目的の人物はそこにいた。
店に入るのは遠慮したいので、本人に店から出てきてもらう交渉をする。
そして数分、現れたのは
「・・・随分とまた、べっぴんさんになったじゃねえの?ヅラ」
さらりと背中までの黒髪をたらし、赤く彩った唇。
一見すると絶世の美人だが、まぎれもない男である。
昔、金時と同じ店で売り上げを競い合った、ライバルで親友だった。
「今はヅラ子だ。久方ぶりに会った第一声がそれか。まったく貴様は何の進歩も内容だな」
「お前までの進歩はいらねえ。てゆーか脳大丈夫か?」
「こっちが貴様に言う台詞だ。神楽の手下になったらしいな」
厳しい声音と、まっすぐな目。
いつまでもこの頑固さは変わらない、と金時は呆れ半分で笑う。
「おーよ、中々に好待遇だぜ?」
「貴様のことだ、ただ利用されているとは思わん。・・・だが、油断はするな」
「いつまで学級委員気取りなんだお前。油断してんのはそっちだろ?サツがお前を探してるぜ」
「・・・その情報は、神楽経由か?」
「企業秘密」
「わかった、信用しよう・・・情報源じゃない、お前をだ」
「そりゃありがてーな。敵ばっか多いモンで」
「それはどうだろうな」
唇の端を上げて笑う顔は、驚くほどに艶やか。
「・・・では、仕事があるので戻るぞ」
「おつとめごくろーさん」
「貴様もな」
眩いネオンの下で、僅かな再会を終えて、
互いはそれぞれの場所へと戻っていく。
迷うことなく。
空はゆっくりと明け方へ向かい、雲の端を朱に染めた。