「辛気臭せーなぁ、オイ」
「そんなんじゃ客に逃げられるだけヨ」
ソファで膝を抱えて唸っている新八に、金時と神楽の声は冷たい。
「妙ちゃんだってもう高校生デショ?そりゃ男の一人や二人できるヨ。可愛いし」
シャンパンを傾ける神楽の膝の上には、白い獣が眠っている。
金時は携帯を弄りながら、缶ビールを煽った。
「そんなヘコむことか?自分で店紹介してホステスやらせてたクセに」
「甘いネ金時。ケツアゴのことだから、自分の目の届く範囲でバイトさせてるほうが安心なのヨ」
「二人とも好き勝手言ってくれますね・・・」
魂まで放出されそうなトーンで、新八が顔を上げた。
「そりゃそーヨ。ケツアゴの分際で妹思い気取るんじゃねーよ」
「どういう理屈ですかソレ妹思いじゃダメなんですか」
「いや、新八のは度を越えたシスコンってんだよ。妹の服の数なんかチェックすんな」
「だって買ってあげた覚えがないんですよあのワンピース!絶対男だ間違いない」
「彼氏のパンツチェックする女かオマエは」
「見てるほうがイライラするヨ。金時、もう一本」
氷に埋まるボトルを顎で指した神楽の手の中で、残り僅かなボルドーがくるくると波打つ。
「心配しなくても、ホストではないでしょうヨ」
「・・・なんでわかるんですか」
「ふふふ、女のカン。妙ちゃんなら、外国人ホストにコロッといくようなバカじゃないわ」
神楽の『勘』は、確かな情報があって初めて発動する。
彼女が、あいまいな自信でものを言うはずがない。
でなければ、この街の女帝ではいられない。
「・・・わかりました、信じます」
「じゃあとっとと稼いでくるアル。金時もな」
「へーい」
金時はまだ携帯を弄っている。
メール受信中、と表示されたディスプレイ。
着信音は、夕方の再放送ドラマの主題歌。
「金時さん、誰からですか?その着メロ」
「上客さーん」
「じゃ、今日も働きますか」
多少鋭気が戻ってきた新八がネクタイを締めなおす。
金時はそれを見て、もう一度携帯電話に目を落とした。

メールの差出人は、妙だ。

『兄が心配性なのは昔からです。ご迷惑お掛けしてごめんなさい』

兄貴が心配してるけど、男でもできた?という問いのメールに、答えがコレか。
元々金時に対して態度が硬い妙だが、これではまるで会話にならない。

(・・・こりゃあ、ひょっとして、ひょっとする?)

返信を打ちながら、自分が仕切る店への階段を下りていく。
さきほど神楽が見せた、やけに自信に満ちて歪む唇。

「ま、ケンカも面倒も大歓迎だし、俺はいいけど?」
「え、なんですか金時さん?」
「いんや、何でもない」

金時は言葉を濁し、携帯をポケットに突っ込んだ。
返事がくる可能性は、2割5分といったところだろうか。

『できてないなら、俺はどう?』

硬い言葉のお断りメールが届くまで、あと5分。