買ってもらったばかりの、ローファーのサイズが合わない。
「・・・おかしいわね、確かにぴったりだったのに・・・」
歩いていると脱げそうになるから、変に足に力が入る。
ぶつぶついいながら、中敷を買って帰ろうと校門を出た。
真ん前に止まっていた、見覚えのある車の存在を無視して。
5歩ほど歩いたところで、けたたましくクラクションが鳴った。
「おい!えーと・・・妙!」
運転席から顔を出して、自分の名を叫ぶ男。
妙はいやいやながらも振り返る。
「・・・こんにちは、土方さん」
洗いざらしの黒髪に着崩したスーツという出で立ちの男は、名門女子高の校門前には不釣合いだ。
しかも、胸ポケットに入っているのは本物の警察手帳。
校門前で連行されたなんて学校にばれたら、謹慎処分ではすまないだろう。
「ちょっと乗っていけ」
「・・・また、新ちゃんのこと?」
妙はうんざりとした顔でカバンを胸の前で抱えた。
土方の顔色で、予想が違わないことがわかる。
仕方なく、黒い乗用車の後部座席に乗り込んだ。

妙の兄・新八は、昔かなり売れっ子のホストだった。
そして土方は、現在歌舞伎町周辺を担当する私服警官。
新八とその相棒・金時のパトロンは中国系マフィアの女ボスで、言わば土方の敵。
妙は少し前に、新八のツテで新宿のクラブで働いていた。
校則違反、むしろ犯罪。
それが土方に捕まって、あやうく退学の危機に陥るも、
土方の上司である近藤が妙の店に出入りしていたこともあって事なきを得た。
保護者として新八が現れた時は、さらに一騒動あったけども。

「新ちゃん、何やったの?私は保護者のかわりかしら?」
「・・・オマエ妹だろ。今回は別段、捕まるようなことじゃねえよ」
「そう。元ホストと現役警官が仲良しなのも問題よね」
「ああ、あいつらは現役の犯罪者じゃねーからな。むしろ、貴重な情報源だ」

なんとなく兄を馬鹿にされたような気になって、妙の表情が厳しく変わる。
それをルームミラー越しに見た土方は、くっ・と小さく笑ってタバコをくわえた。
「心配するな。今は敵でも味方でもないが、向こうが何もやらかさなきゃこっちもどうにもできねえ」
「するなっていうほうが無理でしょう?いつまでもNo1気取りなんだから。もう若くもないのに」
「・・・じゃぁアンタは、卒業したら女王目指すのか?」
「まさか。あなたの敵になる気はないわ」
「まっとうな営業してるんなら取り締まりようもないんだが」

後部座席には、ティッシュボックスや雑誌、空のペットボトルが転がっている。
それらを脇にどけて背もたれに沈み、深く足を組んだ。
ころん、とローファーが足から抜け落ちる。

ルームミラーで後方確認をした土方が、一瞬ぎょっとしたのがわかった。
制服のスカート丈は、太ももギリギリまでしかない。

「見世物じゃないわよ」
「ガキが何言ってんだ」

タバコの煙が吐き出される。
微かに開けた窓から、白く流れていく。

「オマエの兄貴、昨夜ちょっとしたもめ事に巻き込まれてな。どっちかっつーと、事件解決の手助けしてもらった形になる」
「それで、何で私?」
「その後始末が手間取って、今日は帰れないかもしれない」
「・・・ふうん」
「一人じゃつまんねーだろうから、俺が誘いに来た」
「それって、新ちゃんはあんまり関係ないんじゃない?」
「ま、そういうことになるな」

赤信号。ブレーキ。車の群れ。人込み。
振り返る、大人の男。

「で、どこ行きたい?」
「・・・そうね、まず靴とお洋服。この格好じゃ、あんまりでしょ?」

そう言って、妙はスカートの裾を摘んで見せた。

まばらに点っていく街の灯り。
ネオンの津波がもうすぐやってくる。