『草鹿やちる』

「草鹿ー?おい、草鹿副隊長、どこ行ったー?」
十一番隊隊長・更木剣八は、つい最近部下になったばかりの少女死神・草鹿やちるを探しまわっていた。
実力はあるのだが、小柄なので探すのに一苦労する。
「おーい、でてこーい・・・」
「剣ちゃん!!」
突然やちるがどこからか跳んできて、剣八の肩に乗った。
剣八はぎょっとして、あわてて乱暴でない程度にやちるを引き剥がす。
「・・・草鹿。俺は隊長で、お前の上司だってコトはわかるか?」
「もちろん。で、あたしは昇進したての副隊長♪」
この状況下ではどんな顔で説教すべきか、言葉を選ぶ剣八に対して、やちるは愛らしい笑顔で即答する。
「わかってるならいい。じゃあその呼び方はなんだ?」
「剣ちゃんは嫌なの?」
肩から下ろされたやちるは質問には答えず、剣八の目を見上げて逆に聞いた。
「嫌というか、緊張感がないのが気にくわん。もう少し威厳のありそうな呼びかたは出来ないのか。」
「ヤダ。剣ちゃんは剣ちゃんだもん。」
(だもん、ってオイ・・・・。)
剣八は真面目に困った。
このままでは、隊長としての威厳にかかわる。
やちるは剣八直属の部下になって以来、どういうわけだか自分に『剣ちゃん』という気の抜けた愛称をつけ、ところかまわず大声で連呼するのだ。
「せめて隊長と呼べないのか?」
「剣ちゃん隊長、って呼びにくいよ。」
「・・・・・・・・。」
天然か確信犯か?
やちるはどうしても、自分の考えた愛称を譲る気はないらしかった。
「じゃあ言い方を変える。俺をどうしても剣ちゃんなんぞと呼ぶつもりなら、俺もお前をやちる、と呼ぶぞ。」
「いいよ♪」
またまた即答。いや、むしろ、その言葉を待っていたようにも見える。
「いいよ、ってお前な・・・。」
「部下なんだから、好きなように読んでいいんだよ!あたしも剣ちゃんのこと、隊長として尊敬するし、仕事も一生懸命がんばります!」
昇進の挨拶に来たときのような、一生懸命さ炸裂の台詞に剣八の頬が緩む。
「じゃあ、こうしよう。俺はお前をやちると呼ぶから、お前も俺を好きに呼んでいい。ただし、『剣ちゃん』なんてのを他の奴にまで広めるな。」
「もちろんわかってるよ♪十一番隊長に向かってそんな無礼な口聞くやつは、あたしがぶった斬ってやるんだから!!」
本気なのが怖いが、もっと怖いのは自分を無礼者から除外しているところだろう。
自分は剣八に怒られない、というのをちゃんとわかっているのだ。
実力も、剣八に対する尊敬もまわりよりずっと飛びぬけている。
それがわかる剣八だから、やちるには甘いのだ。
「よし、それならいい。じゃあ、やちる。ここからは仕事の話だ。」
剣八は、やちるの目線に合うように自分が腰を落とした。
やちるも真剣な表情で、頷きながら剣八の声に耳を傾ける。
「これがお前との初仕事になる。いいな?」
「うん!剣ちゃんの足引っ張らないように気をつけるね!!」
そういってやちるは剣八の肩に跳び乗った。
今度は剣八も引き剥がしたりせず、そのまま歩いていく。
きゃっきゃと喜ぶやちるを見て、剣八は落ちないように腰を支えてやった。
やちるは腰に回された手に、しっかりと自分のそれを重ねた。

これが、型破りな十一番隊コンビが誕生の瞬間だった。

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